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アメリカ映画産業の3Dブームに暗雲!? 最低水準の3D映画の乱発に危険信号

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3D映画にはちょっとうるさい『アバター』のジェームズ・キャメロン監督
3D映画にはちょっとうるさい『アバター』のジェームズ・キャメロン監督

 世間の『アバター』称賛と感動は、興行収入に反映され、この作品は歴代最高の興行収入を記録する結果となりました。そしてご存じのように『アバター』の大成功をきっかけに、アメリカ映画界には3D映画旋風が起こり始めたのです。

 流行に乗るのはビジネスでは当たり前のことですが、『アバター』後のアメリカ映画業界は猫もしゃくしも3Dという状況が起き始め、次々と3D映画が公開されました。そして夏の大作シーズンに入った現在、懸念される事態がボックスオフィスに起き始めたのです。

 5月下旬よりアメリカで公開され、ボックスオフィスの1位に輝いた3D映画の『シュレック フォーエバー』ですが、実は興行収入の結果は当初予想されていた額より格段に低く、スタジオ側にとっては不本意な数字という結果になっているといいます。『アバター』の爆発的大ヒットによって巻き起こった3Dブームに一体何があったのでしょうか?

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 どの業界においても、人気があるものには類似品が出始め、やがて量産され始めます。それは映画業界においても例外ではなく、業者(=映画スタジオ)の間では商品(=映画作品)の人気が高いうちに、どれだけの数を売り飛ばせるかという競争になってくるわけです。3D人気の爆発と同時にハリウッドでは2Dで作られた映画をポストプロダクション(=編集時)で3D変換するという、俗にいう「ポス・プロ地獄」が多発し始めました。

 『アバター』の3Dが鮮明に美しく仕上がっている理由の一つに、キャメロン監督が長い年月をかけて開発した3D専用カメラで撮影しているという点があります。元から3Dを意図して綿密に撮影された映画と、撮影後に2Dから3Dに変換するのではクオリティーに雲泥の差があります。砂糖を入れなかったクッキーに、出来上がった後でいくら砂糖を降り掛けても、結局はおいしくならないのと同じように、元から入っていないものを後で付け足しても、なかなかうまくはいかないものなのです。

 後処理で3Dにした映画を観ると、往々にして画像が暗く、鮮明な立体感にも欠けるという違いが表れます。ちなみに日本でも大ヒットしたティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』も後処理で3Dにしたものです。後処理決定を下したバートン監督に対して、『アバター』のキャメロン監督は、「2Dで撮影した映画を3Dで公開するなど、まったくの無意味」と公の場で厳しく批判し、話題になりました。

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 さらにキャメロン監督はこう付け加えました。「最近、スタジオ側のプロデューサーが、撮影が終わった後に3Dにするという決定を下す場合がある。こういったクリエイティブな事はスタジオでなく監督が行うべきである」と。

 映画『タイタンの戦い』を心待ちにしていたわたしは、最初のシーンを観た途端、思わず3Dメガネを外してしまいました。画面が異常に暗く、何が映っているのかよくわからなかったのです。一緒に行ったわたしのダンナさまクリちゃんも同じように3Dメガネを外して、「なんだこりゃ……」とぼやいていました。結局、目が疲れた揚げ句、あまりに暗い画像で映画に集中できませんでした。

 この映画に落胆したのはわたしたちだけではなかったらしく、翌日読んだバラエティー誌にはドリームワークス・アニメーションの責任者であるジェフリー・カッツェンバーグ氏の酷評が載っていました。「わたしたちは、『アバター』で3Dの最高水準を経験し、『タイタンの戦い』で最低水準を経験した」と。

 どうやら『タイタンの戦い』も、土壇場になってスタジオ側が3Dの後処理を行う決定を下したらしく、封切り日を1週間ずらすという異例のドタバタ劇だったようです。このときクリエイティブ面の長であるはずの監督は、まったく無視された存在だったらしく、まさに「ポス・プロ地獄」の見本ともいえる事態だったといいます。最終的に『タイタンの戦い』は興行収入的には成功したものの、批評家たちから散々たる酷評を受けました。特に3Dテクノロジーの面ではボコボコにたたかれ、3D業界を傷めつける形となってしまったのです。

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 同作の監督であるルイ・レテリエ氏は、「3Dにする決定を下したのはわたしではない」と告白し、映画の3D化に対して不本意な気持ちを明かしました。

 3D人気が沸騰したとき、すでに撮影済みだった何本もの映画に、急きょ3Dの後処理を施すというパターンが続出しました。そのため3D後処理の経験が豊かな業者たちの予定がパンク状態になるという事態が起きてしまったのです。

 業界には普通の合成処理を扱う業者は山とありますが、まだ比較的新しいテクノロジーである3Dの後処理にたけているとなると、そう多くはいないのです。今さら3Dの看板を取り消すわけにはいかないし、かといって公開日を延期することはできないし……というスタジオは、最高でなくても、まぁまぁできる3D後処理業者に作品を任せるしかないわけです。

 その結果、今回やり玉に挙がった『タイタンの戦い』のような作品が生まれるというわけです。これは、量産した末にクオリティーが追いつかなくなった典型的な見本といえるでしょう。

 ただでさえ3D映画がはんらんして食傷気味のところへ、このように標準レベル以下の3D作品が続いてしまうと、映画ファンは高いチケットを買って観に行っているのに裏切られた気分になり、やがてはウンザリして3Dを見捨ててしまう恐れがあります。

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 今後、3D作品はよほどクオリティーに気を付けないと、1970~1980年代に3Dが流行したときのように、一時の流行で終わってしまう可能性があります。キャメロン監督は、「これから自分の作る作品はすべて3Dで製作する」と言っているだけに、3Dの将来を懸念し、他の3D映画のクオリティーに対し、辛らつな批評をしてしまうのでしょう。

 全米ではすでに大ヒットを飛ばした3Dアニメ映画『ヒックとドラゴン』、待望の続編『トイ・ストーリー3』やM・ナイト・シャマラン監督の新作『エアベンダー』、そして人気シリーズ『バイオハザード IV アフターライフ』など、夏から秋にかけてハリウッドの3D作品がめじろ押しです。

 興行収入ばかりに執着して、クリエイティブ面で無頓着になりがちな映画スタジオの上層部が、これから3Dのクオリティー・コントロールに、果たしてどれだけ気を使ってくれるのか……。それが3D映画の運命を決めるカギとなるのかもしれません。(シネマトゥデイ連載「ハリウッド・コンフィデンシャル」より-取材・文 神津明美 / Addie・Akemi・Kohzu)

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