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「るろ剣」最終章、高評価の理由は?渇望と達成感、そしてシリーズの無限ループ

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 『るろうに剣心 最終章』が2部作で公開され、予想通りヒットを記録している。シリーズ前作から7年経っているにもかかわらず、その人気はキープされた。しかもこの「最終章」は観た人の満足度も高いようだ。なぜ、ここまで熱く迎え入れられているのだろうか。(数字は日本映画製作者連盟、興行通信社調べ)

【動画】大友啓史監督が語る『The Final』と『The Beginning』の関係

 『るろうに剣心』の実写映画は、2012年に第1作が公開。2014年は第2作『るろうに剣心 京都大火編』と、第3作『るろうに剣心 伝説の最期編』が、前・後編の2部作というスタイルで公開され、それぞれ30.1億円、52.2億円、43.5億円と大ヒットを記録した。幕末の動乱期を舞台に、「人斬り抜刀斎」の名で恐れられる無敵の暗殺者、緋村剣心役に佐藤健がハマりまくり、大河ドラマ「龍馬伝」(2010)などを手がけた大友啓史監督の重厚かつエンタメ性満点の演出、ハリウッド作品でも活躍するアクション監督・谷垣健治による、度肝を抜く殺陣やバトルシーンの数々で、「るろ剣」は日本映画の歴史を変えたと言ってもいい革新的シリーズとなった。

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 待ち望まれたシリーズ最新作『るろうに剣心 最終章 The Final』と『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は当初、2020年に公開予定だったが(『The Final』が7月3日、『The Beginning』が8月7日)、新型コロナウイルスの影響で約1年の延期が決定。今回の公開は、その意味で「ようやく観られた」と感慨がひとしおのファンも多い。しかもこの「最終章」の2本でシリーズが完結するとあって、ファンの渇望感を満たしたうえに達成感を味わうという、好循環が生まれたのも事実だろう。

 『The Final』の公開が4月23日。その直後に緊急事態宣言が発令され、東京・大阪の多くの映画館が休業することになった。そして『The Beginning』の公開日である6月4日時点も、緊急事態宣言の解除はされず、ただ、東京・大阪の映画館は時短で営業を再開し始めていた。これは興行にとって非常に苦しい状況。それでも何とか高い数字を残しているのは、それだけ「るろ剣」に観客が集中していることの証だ。

 そして満足度という点は、映画レビューサイトの点数が示している。星の数5点を満点にするFilmarks(フィルマークス)では、『The Final』『The Beginning』共に4.0。これは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『パラサイト 半地下の家族』(共に4.1)といった最近の高評価作に近い数字だ。そしてFilmarksより、やや辛口も目立つYahoo!映画でも『The Final』が3.88で、『The Beginning』が3.75と、こちらも高い数字を維持している(すべて6月11日現在の数字)。

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 『The Beginning』が公開された6月4日の週末映画ランキングは、同作が初登場1位で、『The Final』が2位。東京・大阪のシネコンが営業再開したこともあって、ようやく『The Final』を観て、さらに続けて『The Beginning』を一気に……という人も、口コミで目立つ。

『るろうに剣心 最終章 The Final』より雪代縁(新田真剣佑)、剣心

 まず『The Final』は、圧倒的にアクションへの賛辞にあふれている。これは「るろ剣」実写版のファンへのアピール成功で、どちらかといえば作品全体は第2作、3作のムードに近い。激しいまでの復讐劇が根底にあるのだが、それ以上に、佐藤健や新田真剣佑土屋太鳳ら“動ける”俳優の持ち味を最大限に生かし、谷垣健治のアクション振付と大友監督の緩急鮮やかなカット、的確なアングルもあって、冒頭から上がった観客のアドレナリンは、最後まで高い水準でキープされる。日本のアクション映画として、間違いなく最高レベルの仕上がり。そこに剣心の過去がフラッシュバックし、『The Beginning』への布石になっていく。

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 『The Final』は、いい意味での荒唐無稽なまでのスペクタクル感も際立ち、過去のドラマも含め、膨大な情報量となった。しかし、『The Beginning』は作品のムードが一転する。『The Final』でも挿入された15年前に戻り、そこにはまったく別人の剣心が登場。豪快とか、華麗とか、そんな表現とは無縁の、冷血なまでに相手を次々と殺める「人斬り」の姿に、われわれ観客は慄然となる。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より抜刀斎(佐藤健)、沖田総司(村上虹郎)

 作品全体も、メインキャラクターも、鮮やかなまでの変貌を目撃することこそ、短いスパンで2作に接する喜びだ。『The Final』で予告されていたとはいえ、佐藤健の演技も徹頭徹尾、シリアス。それまでの4作では時折見せた、ほっこりさせる口癖も封印される。この演技が象徴するように、『The Beginning』は、剣心と、彼の運命を大きく変える雪代巴(有村架純)の関係をドラマチックに描くことに集中していく。

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 よく考えれば、『The Final』を観ていた人にとって、『The Beginning』のドラマは想定内のはずだ。すでにポイントとなる描写は回想されていたからだ。しかし剣心と巴の切実な運命を「じっくり」観せられることで、深い感動へと到達している人が後を絶たない。漠然とわかっていた結末に対し、そこまでたどりつく人間の心情をきめ細かに表現する。そんな高等テクニックに挑んだ『The Beginning』が、多くの観客の心をつかんだと言えそうだ。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より雪代巴(有村架純)、抜刀斎

 最近、何かとニュースにもなっているが、配信作品を倍速で視聴することが日常化している。しかし『The Beginning』の剣心と巴の心情は、倍速ではなく、じっくりと味わってこそ伝わるものだと、観客は認識したのではないだろうか。剣心の左頬の傷。その秘密も、彼と巴の運命に時間をかけて寄り添うことで、初めてその深さが理解できる。

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 一方で、すでに『The Final』で語られた物語を深追いしたことに、「驚きがなかった」というコメントも見受けられる。しかしそうした人の多くは『The Final』の豪快なノリを絶賛しており、つまり2部作であらゆる観客の好みを補完し合っているのが、「最終章」の大きな魅力ではないか。2部作全体として、1作目『るろうに剣心』のムードに原点回帰した印象もある。

 回帰という意味で、『The Beginning』は、その1作目の時代につながっていくわけだが、ここで生まれるのが、「もう一度、1作目から見直してみたい」という“無限ループ”の感覚。これも、他のシリーズの完結作では体験できないカタルシスだ。

 そして、この最終章2作について、レビューサイトのコメントで見受けられるのが、「改めて映画館で映画を観られた喜び」で、これは『TENET テネット』などと共通している。新型コロナウイルスによる度重なる緊急事態宣言で、ハリウッド映画、日本映画ともに、大きなスケールの作品の公開が極端に少なくなる中、その「貴重さ」に感動している人も多いようだ。東京都の映画館への休業要請に対し、説明を求めた大友啓史監督の執念は、「映画館で映画を観る喜び」として観客に伝わったようだ。(斉藤博昭)

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の大友啓史監督に生インタビュー|シネマトゥデイ・ライブ » 動画の詳細
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