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悪趣味映画の王ジョン・ウォーターズ、アカデミー博物館で展覧会「皮肉なしに素晴らしい」

嘘のような本当の話! ジョン・ウォーターズの展覧会がアカデミー映画博物館で開催
嘘のような本当の話! ジョン・ウォーターズの展覧会がアカデミー映画博物館で開催

 米ロサンゼルスのアカデミー映画博物館で9月17日から、展覧会「John Waters: Pope of Trash」が始まった。ジョン・ウォーターズは、過激で悪趣味なカルト映画『ピンク・フラミンゴ』や、ブロードウェイで舞台化された『ヘアスプレー』などで有名な映画監督で脚本家。俳優としてテレビ番組や映画に出演もしており、チョビヒゲがトレードマークだ。
           
 オープニングの3日前に開催されたプレビューイベントでは、映画芸術科学アカデミーのCEOのビル・クレイマーが、今回の展覧会について「最も尊敬され、反抗的な作家の一人であるジョン・ウォーターズの映画的遺産と、アメリカのインディペンデント映画を称えるもの」であり、「彼のクリエイティブな声と、過去60年にわたり、映画芸術だけでなく、アメリカのポップカルチャーに多大な貢献をしてきたことに敬意を表するものです」と開催意義について語った。

伝説の悪趣味映画『ピンク・フラミンゴ』フォトギャラリー

 また、ウォーターズを招いたパネル・ディスカッションも行われ、アカデミー博物館館長ジャクリーン・スチュワートと、本展覧会でキュレーターを務めるジェニー・ヒーとダラ・ジャフィーも出席。本展覧会は4年がかりで準備したもので、400点以上の展示物が12のギャラリーで展示されており、ウォーターズの全キャリアが網羅されている。

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 アカデミー賞を受賞するような作品とは正反対とも言える作品を作ってきたウォーターズだが、「あなたの人生が展示されているのを見てどう思いましたか」と質問されると、「本当に素晴らしいよ。皮肉なしに言っているんだ」と答える。

 「僕はいつも両親のことを考えるんだ。ここにいてくれたらいいのにと思う。彼らは僕がやっていることに恐怖を感じていたけど、やりたいことは何でもできると僕に信じさせてくれたからだよ。『彼(息子)には他に何が出来る? これでいくしかない。さもなければ刑務所だ』と(思ったんだね)。もし僕の映画に登場させた、反社会的な狂気を全てはき出す場がなかったら、どうなっていたか誰にもわからない。とても光栄だし、幸せだ。僕は生きているんだ。僕の成功に大きく関わってくれた多くの人々はもうこの世にいないからね。でも、このイベントに世界中から多くの友達が集まってくれた。間違いなくドリームランドの同窓会だよ」と嬉しそうに笑った。

 メリーランド州ボルチモア出身のウォーターズの初期作品は、俳優からクルーまで、みんな無償で協力した友人たち。ウォーターズは、有名になって規模の大きな作品を撮るようになってからも、同じ人々を繰り返し使い続けた。ウォーターズの最初の制作会社の名前ドリームランドにちなんで、この仲間たちは“ドリームランダー”と呼ばれている。ドリームランダーたちとの絆はとても強く、ウォーターズ作品を知るうえで重要な要素となっており、特に、監督2作目の短編『ローマン・キャンドルズ(原題) / Roman Candles』(1967)から『ヘアースプレー』まで、一緒に仕事をした女装の怪優ディヴァインとのコラボレーションはよく知られている。

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 「僕は、昔からの友人がいないような人は信用しないんだ。Facebookなんかは友情じゃない。あれは怠惰な友情だ。外に出かけて人に会わないといけないし、友達の誕生日は覚えていないと。僕たちは実生活でも友達で、映画を作っていないときも、同じように彼らと会っていたよ。ハリウッドスターが出る映画にも、昔からの友人たちみんなを使った。ほとんどの場合、ハリウッドの映画スターたちとも、今でも友達なんだ。難しい人なんていなかったよ」とウォーターズは振り返る。

ジョン・ウォーターズ監督

 また、マスコミ関係者とも、これまでうまくやってこれた。若い頃から映画ビジネスにも興味を持っていたといい「今でも100冊の雑誌を取っているし、毎日オンラインで20紙は新聞を読んでいる。それらは僕の(作品の)題材になる、そういうネタを使うからだよ。どんな分野であれ、いつも若い人たちに言うんだ。もしアート分野に関わりたければ、アートギャラリーに行くことだ。もし映画業界に行きたいなら、良い作品以外に、悪い作品も、全ての映画を観ることだ。そして業界紙を読まないといけない。14歳の時、僕はVariety紙を読んでいたよ。どうやって人々に映画を観に来てもらうか学ばないといけないんだ」と明かす。

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 最後に、この展覧会を見た人々に、何を持ち帰ってもらいたいかと質問され、「敵に愚かさを決して感じさせない、ユーモアのセンスだ。たとえ愚かでも、彼らに賢いと感じさせる。そして彼らを笑わせることができれば、彼らに(こちらの)言うことを聞かせることができるからね」といかにもウォーターズらしいコメントをしていた。
 
 本展覧会は、博物館の4階全部を使って展示されており、かなり見応えのあるものとなっている。以下で簡単に紹介する。

 ジェニー・ヒーは、ウォーターズのキャリアを展示物で語るにあたって、来場客を3つのグループに分けて想定したという。まず、彼の全作品やワンマンショーを観ていて、著書のサイン会には必ず行くような熱狂的な観客。2つ目は、彼の有名な作品を数本、彼がゲイのキャラクターの声優を務めた「ザ・シンプソンズ」の1997年の有名なエピソード等を観たことがあるような観客。3つ目は、彼のことを知らない観客だ。そして、どの観客も楽しめるように展示を企画した。

 最初のギャラリーは、ウォーターズの初期作品がプレミア上映された、教会のようなセッティングになっており、ウォーターズやディヴァインらのステンドグラスがある。

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ディヴァイン

 長編映画『モンド・トラッショ』(1969年)、『マルチプル・マニアックス』(1970年)『ピンク・フラミンゴ』(1972年)、『フィメール・トラブル』(1974年)、『デスペレート・リビング』(1977年)、『ポリエステル』(1981年)、『ヘアスプレー』(1988年)、『クライ・ベイビー』(1990年)、『シリアル・ママ』(1994年)、『I love ペッカー』(1997年)、『セシル・B・ザ・シネマ・ウォーズ』(2000年)、『ア・ダーティ・シェイム』(2004年)の12作品は、脚本や手紙、衣装、小道具、ポスター、写真やスクラップブックなど、深く掘り下げて展示されている。

『クライ・ベイビー』でジョニー・デップが着た皮ジャン

 見どころは、『ヘアースプレー』でリッキー・レイクが着たゴキブリ柄のドレス、『クライ・ベイビー』でジョニー・デップが着た皮ジャンとギター、『マルチプル・マニアックス』と『ピンク・フラミンゴ』の手書き脚本、『フィメール・トラブル』の死刑用の電気椅子など。

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『ピンク・フラミンゴ』で焼かれてしまったトレイラーを再現

 また『ピンク・フラミンゴ』で焼かれてしまったトレイラーを再現し、その中で予告編を流しているが、本編の映像は一切使わず、ショッキングな映画を観たばかりの観客の感想で構成されていて面白い。今ではよくある宣伝方法だが、51年前にやっていたのはさすがだ。

 本展覧会の開催期間は、2024年8月4日まで。ウォーターズ作品12本の回顧上映が10月28日まで同時開催されている。(文・写真:吉川優子/Yuko Yoshikawa、細谷佳史/Yoshifumi Hosoya)

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