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サードシーズン2009年4月

私的映画宣言

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私的映画宣言 サード・シーズン4月

筆者の近況報告

山縣みどり

ついに花粉症デビュー! マスクとサングラスで武装し、悲しくない映画にも涙……。最近泣いたのは『カンフーシェフ』で、加護亜依ちゃんのド下手な演技のせい。相手役ヴァネス・ウーの戸惑った表情も痛い。言語って大切、としみじみ。

高山亜紀

ピンクパンサー2』クルーゾー警部のセリフ。「仕事中だけどワイン、飲んじゃっていいよね~。ワイン、僕が選ぶね」イタリア出張中、レストランにて、お気に入り女性と。中川元財務大臣に、ぜひ観てもらいたい一本。

中山治美

子どもたちの映画製作ワークショップ“「映画」の時間”へ行った。昼食時、「映画のキスで口の中に舌を入れていた。あの中はどうなっているのか知りたい」と言われて困った。子どもはわからなくていいんだよ(byヤッターマン)。

小林真里

ゆうばりに続きフランス映画祭では、壮絶ゴアかつ深遠で哲学的な傑作ホラー『マーターズ』(原題)の監督パスカル・ロジエ(ハードコアな映画マニアで超フランクなナイスガイ)と、主演のマルジャーナ・アラウィのアテンドをしました。ラッキーでハッピーな日々でした。

今 祥枝

2回の引っ越しを含み10年近く住んだ地域から、この春卒業。こんな映画もあったなあとかこんな原稿書いたっけ? とか、こんな雑誌もあったよなあ……などと余韻に浸る間もなく、書籍や雑誌の山と格闘中!

スラムドッグ$ミリオネア


(C) 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

『トレインスポッティング』『28週後…』など多彩なジャンルで観客を魅了する、鬼才ダニー・ボイルの最高傑作といわれる感動的なヒューマン・ドラマ。インドを舞台に、テレビのクイズ番組に出演して注目を集めたある少年が、たどってきた生い立ちと運命の恋をボリウッド風の持ち味を生かしながらつづっていく。主演はこの作品でデビューし、数々の映画賞を受賞したデヴ・パテル。底知れないパワーと生命力を感じさせる人間讃歌に息をのむ。

[出演] デヴ・パテル、マドゥール・ミタル、フリーダ・ピント
[監督] ダニー・ボイル

山縣みどり

8点不況やリストラが続く暗いご時勢を一瞬忘れさせてくれるフィール・グッド・ムービー。クイズの正解ごとに、主人公ジャマールが生き馬の目を抜くムンバイの路上でサバイバルしてきた過去が明らかになる構成。子どもを食い物にする醜悪な大人や貧困、宗教紛争といったスラムの悲惨さはサラリと流し、生き延びるスラムドッグのタフさを前面に押し出すダニー・ボイル監督のお涙ちょうだいに走らない演出が鮮やか。路上で培った知恵で次々と危機を回避し、まっすぐに生きるジャマールの物語はおとぎ話かもしれないが、希望を与えてもらった。

高山亜紀

9点世界的大不況の中、絶望的状況から成り上がるヒーローは多くの人に希望を与えるだろう。ただし、日本では「銭ゲバ」で、世界は夢のあるこっちの話を取るんだろう(ある意味兄サリームは風太郎的だが)。ジャマールくんこそ派遣の星か。何ともポジティブ。そして、人生において無駄な経験なんて何一つないという根底に流れるメッセージがまたポジティブ。エンドロールでキャストが踊りまくるボリウッドへのオマージュもさわやかだ。

中山治美

6点あまりにもベタな内容で、試写で号泣している人はいるわ、アカデミー賞受賞しちゃうわで、わたししゃますますドン引き中。英国人のダニー・ボイル監督が、インド映画を撮った意欲と目新しさは買うけどね。以降、インド・ブームだって!? オランダでも早速『ボリウッド・ヒーロー』(原題)ってのが作られたよ。『ムトゥ踊るマハラジャ』のときみたいに、何でもかんでも買い付けるのは止めようね。映画会社の皆さん! ブームって確実に去るのよねぇ。

小林真里

9点傑作。一大サクセスと多くの人たちの夢が込められた「クイズ$ミリオネア」の大舞台を背景に、『シティ・オブ・ゴッド』のようなスラム街での壮絶サバイバル、愛憎入り混じる兄弟愛、運命的な恋といった劇的過ぎるドラマがフルボリュームで描かれ、さらにハイレベルな娯楽性も混在するという、映画の醍醐味(だいごみ)がすべて詰まったような夢のような作品。ダニー・ボイル監督お得意のエッジーで躍動感あふれるイマジナティブな映像美はさらなる進化を遂げており、音楽のセンスも抜群に素晴らしい。ラストがちゃんとミュージカルになっている点もたまらないのです。

今 祥枝

7点サイモン・ボーフォイの脚色、ダニー・ボイルの監督としての演出手腕は本当に素晴らしい。取材時に「自分はムンバイの悲惨な現状にさえオプティミスティックな何かを見つけることができる」と語っていたボイル監督。時流に乗った本作のポジティブなスピリットにも大いに納得。一方で気になったのは臨場感あふれる映像に反して、表層的な現代のインド・ムンバイの描写。現地の人々がこの映画に対して複雑な心境を抱いている理由も理解できる。

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バーン・アフター・リーディング


 (C) 2008 Focus Features LLC. All rights Reserved.

『ノーカントリー』でアカデミー賞作品賞ほか主要3部門などを受賞したジョエル、イーサン・コーエン兄弟が放つクライム・コメディー。CIAの機密情報が書き込まれた1枚のCD-ROMをめぐり、さまざまな人々が衝撃の結末へと突き進んでいく。出演は『オーシャンズ』シリーズのジョージ・クルーニー、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のブラッド・ピットら。演じる俳優をそれぞれ想定して書かれたという個性豊かなキャラクターたちと、彼らがたどる運命の行方に注目だ。

[出演] ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、フランシス・マクドーマンド
[監督・製作・脚本] ジョエル・コーエン / イーサン・コーエン

山縣みどり

6点多才で器用で、『ノーカントリー』でついにオスカーを受賞したコーエン兄弟らしい皮肉なシャレが散りばめられていて、キャラも変人そろいだし、オチまで綿密に作られている。でも、あまりノレないのは、ご都合主義が過ぎるから。雪だるま式に人々がつながるのはいいとしても、それぞれの人物のトレンディードラマ的な距離感に鼻じらむ。セクシー俳優ジョージ・クルーニーブラッド・ピットが余裕かましてボケ男を演じているのはいいが、フランシス・マクドーマンドの痛い中年女ぶりにはドン引き。だって、彼女の気持ちがよ~くわかるんですもの。

高山亜紀

7点バカ面丸出しの演技で話題になっているブラピや、フランシス・マクドーマンドにまで手を出しちゃう色ボケジジイを演じたジョージ・クルーニー。強烈な人々が次々に登場し、キャラ祭りのようで面白いのだが、一方で「おれ、こんな役もできるんだぜ」みたいなコンベンション的においがしないでもない。そして、ブラピとジョージを一緒にするの、もう、やめにしてくれないか。くどい。カレーラーメンみたい。人気者は別々に食べたい~。

中山治美

7点おくりびと』の例を見るまでもなく、オスカー効果ってスゴイ! と本作を観て実感。『ノーカントリー』後ってことで、コーエン兄弟の“あて書き”でこれだけの俳優が喜んで出ちゃうんだもん。滝田洋二郎監督も今ならイケるね、きっと。中身は9.11後、ささいな事でも疑心暗鬼に捕らわれたアメリカ社会を風刺する、コーエン兄弟らしいブラック・コメディー。常に社会を斜めから見る視点が良いね。でも『ノーカントリー』に比べると、インパクト薄。

小林真里

5点共時性を巧妙に紡ぎながら、悲劇の連鎖がドミノ倒しの如く登場人物たちに次々と作用していく皮肉を描くという、典型的なコーエン兄弟の映画的手法で作られたブラック・コメディー。なので、特に目新しさも驚きもなく、豪華キャストたちが悪ノリして嬉々と、決して魅力的とはいえないキャラクターを演じているのが、どうも鼻についた内輪ノリ的な作品。唯一ジョン・マルコヴィッチだけが、強烈な毒を放っていた。『ノーカントリー』の反動で作った映画とはいえ、これはちょっと……。

今 祥枝

8点『ノーカントリー』でアカデミー賞作品賞と監督賞に輝くコーエン兄弟の新作は、ばかばかしいまでの無意味さ! オスカー級の豪華俳優陣を配して、あて書きによるトホホな登場人物たちを大マジメに演じさせるとは、何という贅沢(ぜいたく)さ。さらにジェリー・ブラッカイマー印のブロックバスターを参考にしたとのたまう、コーエン兄弟のハリウッドをおちょくった精神も痛快だ。映画を観て何も学ぶことがなくたって、面白ければいいのである。

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グラン・トリノ


(C) 2009 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

ミリオンダラー・ベイビー』以来、4年ぶりにクリント・イーストウッドが監督・主演を務めた人間ドラマ。朝鮮戦争従軍経験を持つ気難しい主人公が、近所に引っ越してきたアジア系移民一家との交流を通して、自身の偏見に直面し葛藤(かっとう)する姿を描く。イーストウッド演じる主人公と友情を育む少年タオにふんしたビー・ヴァン、彼の姉役のアーニー・ハーなどほとんど無名の役者を起用。アメリカに暮らす少数民族を温かなまなざしで見つめた物語が胸を打つ。

[出演] クリント・イーストウッド、ビー・ヴァン、アーニー・ハー
[監督・製作] クリント・イーストウッド

山縣みどり

9点クリント・イーストウッド演じる主人公がショットガンを手に「おれの庭から失せろ」とすごむ場面を見た予告段階からの期待は裏切られず。というより、予想をしのぐ完成度の高さにうなった。頑固で保守的な老人が隣家の移民家族と知り合い、思いも寄らなかったさまざまな感情が胸の内に芽生え始めるのが物語の肝。気弱な移民少年を鍛える過程で見せるスパルタな父性愛や不正と戦う気概は失われつつある男の美学で、78歳監督が体現するダンディズムに震えた。郊外すらも西部に変えたイーストウッド、“老いてなお盛ん”なり。

高山亜紀

8点現代の問題を盛り込みながら、観ていてすがすがしいほどの西部劇だった。隣人愛、少年との友情、勧善懲悪……何歳になってもイーストウッドはヒーローが似合う。そしてあの神々しいエンディング。あれを観れば、最後の主演作かと勘ぐるのもわかる。個人的には大勢のおばあさん(といってもイーストウッドより年下だろう)から春巻をもりもり盛られて鼻の下を長くしているイーストウッドが何ともほほ笑ましかった。あと、アメリカ人ってどんだけ、ビール飲むんだ。

中山治美

10点今年のアカデミーはアホちゃうか! と、いまだムカつき中。コレを候補に入れないでどうする。イーストウッドの最高傑作だよ! 挑戦戦争に出兵し、息子たちと良好な関係が築けなかった堅物オヤジが、贖罪(しょくざい)のように隣人のモン族を守る。その緻密(ちみつ)な心理描写も素晴らしいが、アメリカが移民問題を批判するのではなく、彼らも理由があってココに流れて来たのだときちんと描いている。“アメリカの今”を笑いを交えて見事にとらえた作品。傑作!

小林真里

8点イーストウッド監督作の中でも、最高峰の一本。頭が固くて、しかも差別主義者の孤独な老人が、侮辱していた異人種たちとの交流を経て心を氷解させていく様が、じっくり丁寧にユーモアも込めて描かれており、こちらの心もほだされる。一貫した芯(しん)の強さがあるシリアスでハードボイルドな作風である一方、懺悔や心の救済(解放)、そして犠牲心までを描いた心洗われるような優しく崇高な物語に、激しく魂を揺さぶられた。78歳イーストウッドが全身全霊を込めた圧巻の演技は、全俳優のお手本。恐れ入りました。

今 祥枝

9点こんなイーストウッドを待ってました! という会心の作。偏屈で頑固、近隣に住む外国人への偏見だって隠さず、不器用なまでに一本筋の通ったウォルト・コワルスキーは時代遅れだが、実に愛すべきアンチヒーロー。特定の俳優を想定せず、若手脚本家の実体験が基になっているというが、イーストウッドのために書かれた脚本としか思えない味わい深さとカタルシスがある。ウォルトが自分なりに正義の落とし前をつけるラストに、ひたすら涙した。

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筆者プロフィール

今 祥枝斉藤 博昭前田 かおり
中山 治美鴇田 崇相馬 学
高山 亜紀小林 真里山縣 みどり
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