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『ビフォア』シリーズ徹底解剖!監督&キャストが今だから語る制作秘話!

今週のクローズアップ

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今週のクローズアップ 『ビフォア』シリーズ徹底解剖!監督&キャストが今だから語る制作秘話!

 列車で偶然出会ったアメリカ人とフランス人の若い男女が意気投合し、翌朝の別れまでウィーンの街を歩きながら語り合う姿を描いた『恋人までの距離(ディスタンス)』(原題:ビフォア・サンライズ)。9年後、パリで再会するもすでにそれぞれの生活がある二人が、男がパリをたつフライトまでの短い時間で互いの胸の内を探り合った『ビフォア・サンセット』。そして、それから9年。ギリシャの海辺の街を舞台に、双子の親となった二人の現実をありのままに映し出したのが現在公開中の『ビフォア・ミッドナイト』だ。18年に及ぶ『ビフォア』シリーズの集大成というべき本作の公開に際し、リチャード・リンクレイター監督、イーサン・ホークジュリー・デルピーが本シリーズにまつわる裏話や思いを語った。

『恋人までの距離(ディスタンス)』は若き日のリンクレイター監督の実体験

 第45回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞したシリーズ1作目『恋人までの距離(ディスタンス)』は、若き日のリンクレイター監督の実体験を基にした作品だ。1989年の秋、当時29歳だったリンクレイター監督は、映画『スラッカー(原題) / Slacker』の撮影後、ニューヨークの自宅に帰る前に立ち寄ったフィラデルフィアのおもちゃ屋で出会った女性と、劇中のジェシー(イーサン)とセリーヌ(ジュリー)がそうしたように、真夜中から朝の6時まで語らいながら歩き回ったり、いちゃついたりして過ごしたという。『恋人までの距離(ディスタンス)』でのジェシーとセリーヌは電話番号を交換せずに別れるが、この点は現実と違っていた。

リンクレイター監督:実際は電話番号を交換したんだよ。ハハハ(笑)。だからこそジェシーとセリーヌには番号を交換させなかったんだと思う。僕らは番号を交換して何回か電話でやり取りしたけど、自然とそれもなくなった。遠距離で関係を維持するのはとても難しいから。

 リンクレイター監督は1989年の夜、街を歩きながら「僕はこの夜を映画にする」とその女性に話していた。それだけに、自然消滅したとはいえ『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)のプレミア上映にその女性が現れるのではないかと考えていたという。リンクレイター監督のそんな思いが反映されたシリーズ2作目『ビフォア・サンセット』(2004年)では、作家になったジェシーが“あの夜”のことを書いた新作のプロモーションで訪れたパリで、9年ぶりにセリーヌと再会を果たすさまが描かれていた。しかし結論から言えば、その女性は『恋人までの距離(ディスタンス)』のプレミアに姿を見せず、リンクレイター監督が彼女に再会することは二度となかった。なぜなら、彼女は1994年5月9日、25歳という若さでバイク事故のため亡くなっていたからだ。

リンクレイター監督:数年前に彼女の友人から手紙が来て、彼女がバイク事故で亡くなっていたことを知った。事故は『恋人までの距離(ディスタンス)』の撮影前に起きたんだよ。本当に悲しい話だ……。だから『ビフォア・ミッドナイト』(2013)は彼女にささげている。エンドクレジットの最後に彼女の名前を入れたんだよ。

 

『恋人までの距離(ディスタンス)』より
GABRIELLA BRANDENSTEIN/CASTLE ROCK/DETOUR/The Kobal Collection/WireImage.com

電話インタビューに応じたリチャード・リンクレイター監督
(c)KaoriSuzuki

イーサンとジュリーは1作目から脚本に参加していた!

リンクレイター監督:イーサンとジュリーと初めて集まったときのことは本当によく覚えている。お互いが親愛なる友人、そしてコラボレイターとなることがわかり、僕はセリーヌとジェシーと一緒の部屋にいることを理解したよ。僕たちが一緒に映画を作ることを決めた特別な瞬間だった。

 三人が初めて対峙(たいじ)したときこそ、リンクレイター監督が『ビフォア』シリーズで最も記憶に残っていると語る一瞬だ。映画のほとんどがジェシーとセリーヌの会話である本シリーズにおいて、脚本が重要な役割を担っていることは言うまでもない。イーサンとジュリーが脚本家としてクレジットされたのは2作目(第77回アカデミー賞脚色賞にノミネート)からだが、ジュリーは二人も1作目から脚本を手掛けていたと明かす。

ジュリー:1作目はほとんどイーサンとわたしが書いたんだけど、とても不気味な法的理由で認められなかったの。本当に不気味なのよ。何かを書いてそこに自分の名前がないのはひどい気分だわ。だから2作目は初稿から脚本家組合に登録して自分の権利は守ったの。もう32歳だったしバカじゃなかったから!


 三人共同での脚本執筆は「雪だるまを作るみたいなもの」だという。3作目『ビフォア・ミッドナイト』ではジェシーとセリーヌに与えられた、ジェシーのニューヨーク行きのフライトまでの短い時間を映し出した『ビフォア・サンセット』の余韻あるラストシーンのその後が語られている。

イーサン:アウトラインはすごく頑張った。それからみんなのノートを集め、基本的なところから決めた。「二人は一緒にいる」っていうね。それは大きな決定事項だった。

リンクレイター監督:ハハハ(笑)。ジェシーは空港へ行かなかった。そのことは全員にとって明らかなことだった。僕らはそのシーンを観てはいないけど、その瞬間を取り上げた。二人の関係は続いている。善かれあしかれね。もしセリーヌとジェシーがどこにいるのか、どうなっているのかについて完全に意見が一致しなければ、3作目を製作するなんてできなかったよ。僕たちが一番表現したかったのは、セリーヌとジェシーが時間を経て「自分たちを見つける」ということなんだ。

イーサン:リチャード(・リンクレイター監督)はいいセリフや心に残った出来事、映画に関係あると思ったことなんかをノートに取り続けていたね。雪だるまがどんどん大きくなり、5日間の瞑想期間に入って25ページできた。それからまた別の機会に集まって、ロケ地がギリシャに決まってからは8週間で40ページの脚本ができたんだ。

 

長年にわたる友人にしてコラボレイターの三人

ジュリー・デルピー

イーサン・ホーク
(c)KaoriSuzuki

アドリブは3作通してゼロ

 流れるような会話が特徴の本作だが、アドリブはシリーズを通して一切ない。アドリブと思わせるほどの自然なイーサンとジュリーのやり取りは、セリフを全て台本に書き起こして構成を練り、何度も重ねたリハーサルのたまものだ。

イーサン:アドリブは一言もなかった。リチャードはどう撮るかに関してはとても几帳面だから。彼はできるだけカットせずに撮りたいと考えているから、脚本にこだわる。あと役者がどれだけ自然に見えるかということにもこだわっているね。

リンクレイター監督:イーサンとジュリーがその努力に見合うほど十分に評価されることはないと思う。なぜなら、彼らの演技は自然に見えるからだ。それがこの作品の目指したところではあるんだけど、二人の見えない努力に気が付く人はいないだろうね。

 
自然な会話の裏には俳優陣の見えない努力が…… - 映画『ビフォア・ミッドナイト』よりメイキングシーン
(C) 2013 Talagane LLC. All rights reserved.
前2作とは一味違う!時を重ねて変わった二人の関係

 実のところセリーヌとジェシーが一緒に過ごしたのは、『恋人までの距離(ディスタンス)』では出会いから翌朝の別れまでの14時間、9年後に再会した『ビフォア・サンセット』においては85分のみだ。『ビフォア・ミッドナイト』で40代になった二人は9年という歳月を一緒過ごして新しい家族も増えており、ほんの一時を共有しただけの前2作での関係とは明らかに違うものになっている。互いのことを大切に思っていながらふとした一言で我慢ならなくなったり、満たされていながらもっと違った生き方もあったんじゃないかと不満をぶつけたりする二人の姿に身につまされる人も多いはず。リンクレイター監督が『ビフォア』シリーズで探究したのは、時間の流れによって変化する人間関係だ。

リンクレイター監督:恋に落ちて、結び付きができて、日常を誰かと過ごすことを決め、子育てといった家庭内のあれこれが出てくる……。家庭内のあれこれを描く映画はあまりない。退屈だからね。そうしたことを興味深いやり方で取り上げるのは難しい。恋に落ちる、破局するっていう部分は簡単に面白くできるんだけどね。

ジュリー:この映画でイチャイチャしていたらウソよね。観客におもねっているというか、バカみたいだと思う。ハリウッドのロマンチックコメディーを時々観るけど、40代の男女が20代の人とゴタゴタしたりしているのよ! これは問題だわ。だって実際のアメリカ人はそうじゃない。30代にもなれば子どももいるし、現実的じゃないわ。みんな、夢物語を押し付けられているのよ。全ての映画がそうとは言わないけど、いくつかはそう。だから、わたしたちはこの映画でもう少し踏み込んだところに行くチャンスだと思ったの。見せ掛けなんかじゃなく、少し真実に近づこうって。

 ジェシーとセリーヌの間に出会った頃のようなときめきはないが、変化は必ずしも悪いことではない。むしろ時を重ねた二人の関係こそ単なるロマンスよりずっとロマンチックで、だからこそ何らかの犠牲を払ったとしても手に入れる価値のあるものだと感じさせられる。

リンクレイター監督:セリーヌとジェシーは描くべきことと共に何年かごとに現れるんだ。『ビフォア』シリーズは回を重ねるごとにより良く、より深く、そして人生はより良く、より面白くなっていると思う。ハハ(笑)、たぶんね。『ビフォア』シリーズは楽しいライフプロジェクトだ。

映画『ビフォア・ミッドナイト』は公開中

 
『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)より
GABRIELLA BRANDENSTEIN/CASTLE ROCK/DETOUR/The Kobal Collection/WireImage.com
『ビフォア・サンセット』(2004年)より
EMILIE DE LA HOSSERAYE/CASTLE ROCK/DETOUR/The Kobal Collection/WireImage.com
『ビフォア・ミッドナイト』(2013)より
(C) 2013 Talagane LLC. All rights reserved.

取材・文・構成:シネマトゥデイ編集部 市川遥


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