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えげつない!タワー・マンション格差と映画『ハイ・ライズ』

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タワーマンション格差という都市伝説

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映画『ハイ・ライズ』40階建ての高層マンション。日本では現在西新宿に西新宿タワーなる60階のタワーマンションが建設中です。高さでは大阪市中央区のThe Kitahama(ザ・キタハマ)が209.4mで日本一(C) RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

 「タワーマンション格差」「タワーマンションヒエラルキー」という言葉は一人歩きしていて、いろいろなイマジネーションが、人々のあらぬ想像をかきたて続けています。低層階の住人は高層階の住人に頭が上がらないとか、マンションのママ友同士の自己紹介では、必ず名前の前に階数を言うとか……階数によって家族全員を格付けするといいます。そのような都市伝説はどこから生まれたのでしょうか。それはタワーマンションが、高いところから眺めるすばらしい眺望が資産価値の一つとも言われていることが前提にあります。そのため、上層階にいくほど眺望がいいタワーマンションは、階数が1階上がるほど資産価値も高くなっていくため価格に反映され、高層階に住む人と低層階に住む人では収入格差があるなどといわれています。(編集部:下村麻美)

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タワーマンションの屋上庭園

 しかし、高層階が低層階より価格が高いということは事実として存在しますが、どの階に住むかは個人の好みなどからくるもので、だれもが高いところに住みたいわけではなく、収入や資産などと単純に結びつくものではありません。なので、「タワーマンション内は格差社会」などのように面白おかしく言われるのは、社会の縮図を単純化したいという人々の欲求を具現化したものだといえます。

 日本ではここ20年ぐらいでタワーマンションが普及してきましたが、映画『ハイ・ライズ』は1975年のJ・G・バラードの小説「ハイ・ライズ」が基になっています。つまり40年も前から「タワーマンション格差」という都市伝説は存在していたようです。しかも、舞台はイギリスという階級社会。単純明快に階級社会を具現化したこの小説は、それまでのSF小説をとは一線を画し、日常生活の中から人間の心理状態によって生み出される奇妙さを基に物語が展開していくという構成で、傑作と評されました。

最上階に住むのはマンションで一番のお金持ち

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ハイ・ライズ、40階マンションの屋上庭園。映画では最上階の住人の専用部分ですが、最近日本で建設されるタワーマンションは屋上が共用施設の庭園になっているものが多くみられます

 映画『ハイ・ライズ』とともにタワーマンション格差についての都市伝説を検証してみます。映画の舞台は原作の書かれた1975年と同じく70年代。しかし、舞台が現代という設定だとしてもなんの違和感もありません。40年以上たっても変化のないことが不気味でもあります。一般的にタワーマンションの眺望は資産価値の一つ。眺望は高いほど良くなるため最上階がマンションの中で一番価格が高いというのは事実です。映画『ハイ・ライズ』の最上階の住人も高名な建築家でハイ・ライズの設計者でもあります。優雅な生活を送る一方で低層階の住人とは交流を絶つという、いけ好かないヤツでもあります。

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低層階の住人と高層階の住人の格差

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25階の住人。医師ドクター・ラング(トム・ヒドルストン)の部屋。40階のタワーマンションであれば一般的に23、4階からが高層階といわれています。主人公ドクター・ラングは高層住民。人間的にいい人なので、高層、低層どちらの住民とも良好な関係です

 映画『ハイ・ライズ』では、低層階の住人を庶民的に描く一方で高層階の住人は富裕層であるという設定で描いています。日本のマンション事情においても階数が上になると価格も上昇していくというのは事実ですが、同じマンション内でも方角や角部屋、隣接する建物が眺望を遮っているか、いないかなどで差がでることがあります。そのため単純に階数だけで低層階が庶民層で高層階が富裕層とはいい切れません。ただし都心のマンションの最上階で100平米以上あれば、中古でも2億円以上の価格帯が普通のため、都心のマンションに限っていえば最上階の住人は富裕層であるというのは、ほぼ間違いないといえます。

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3階ワイルダー家は、高層階の裕福な住民と違い、庶民的な設定で描かれています

 また都心のタワーマンションにおいて高層階の購入者は、医者、弁護士など“士”の職業や会社経営者が最も多く、会社員の場合は年収が1,000万円を超える金融系や大企業の共働き世帯です。映画『ハイ・ライズ』がリアルなのは、最上階の住人は建築士、39階には親が裕福な医学生、そして25階に住む主人公のドクター・ラング(トム・ヒドルストン)という設定です。一方で低層3階の住人ワイルダーは、ドキュメンタリー映画の監督という収入の安定しないお金に苦労しそうな設定で、妻は身重で2人の小さな子どもがいます。

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豪華な共用施設はやがては朽ち果てる

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マンション内には、プールだってあります。都内のタワーマンションにも、港区の湾岸地域や豊洲、中央区などプールや温泉付き物件が存在します

 マンション評論家の中には、豪華な共用施設が管理費の負担を増やすだけで、やがては使われなくなりさびれていくという見方をする人もいます。確かに最近のタワーマンションの中には、室内プールや温泉、スーパーなど豪華な設備をマンション内に保有することも多く、維持費は管理費である程度まかなっています。大手の不動産会社(または管理会社)は、それらの維持費を見越して数十年単位で管理費を決めているので管理費が後々膨らんでいくことは、通常のケースではあまり考えられません。しかし、プールや温泉、スーパーなどの共用施設は、当初はものめずらしさから住民が利用しますが、近隣にもっと便利な施設が出来たり、子供が成長したりすると次第に使われなくなっていくことは多々あるようです。

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こちらはハイ・ライズのマンション内スーパー。タワーマンションの売りでもある共用施設はもろ刃の剣でもあります

 映画『ハイ・ライズ』でも豪華な共用施設が描かれています。ただしその朽ち果てぶりは恐ろしく、マンション内のスーパーでやがて略奪が起きたりします。実際のタワーマンションでも、豪華な共用施設はきちんと管理された上で成り立つもので、管理がずさんになると映画と同じようなことが現実になる可能性は十分にあります。

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実は存在した!恐怖のタワーマンション

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ロンドンにある現在のトレリック・タワーです

 ここまで、タワーマンション格差が都市伝説と書いてきましたが、実は1975年のJ・G・バラードの小説「ハイ・ライズ」にはモデルになったタワーマンションがあります。ロンドンにある1972年に竣工されたトレリック・タワーという31階建てで200戸超の公営の集合住宅でした。有名な建築家エルノ・ゴールドフィンガーが設計しています。しかし、管理のずさんさから建物内部は次第に朽ち果て、セキュリティーは意味をなさなくなり、やがては犯罪の温床となっていきました。当時はタワー・オブ・テラーと呼ばれ近隣の人々からも恐れられていたそうです。さらにトレリック・タワーの近くにはほかに高い建築物はなく、異様な存在感を示しています。現在はオーナーが変わり、セキュリティーや管理が行き届いた高層住宅として多くの世帯が暮らしています。どんなに豪華な建物でも、専用部分だけでなく、共用部分の管理を維持していくことがタワーマンションだけでなく、すべての住宅の資産価値、そして住み心地につながります。それには共同住宅においては高層、低層関係なく住む人全員が建物を愛して管理・維持していく必要があります。さて、映画『ハイ・ライズ』の住民はどうなっていくのでしょうか? 

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トレリック・タワーは、現在はきちんとした管理がされ、多くの住民が生活しているきちんとした高層住宅です

(C) RPC HIGH-RISE LIMITED / THE BRITISH FILM INSTITUTE / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2015

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