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ぐるっと!世界の映画祭

大気汚染、地球温暖化、原発事故etc…地球の今が分かる!グリーンイメージ国際環境映像祭(日本)

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審査委員特別賞受賞作『風の波紋』(小林茂監督)。「雪深い山あいの集落に住む古くからの住人と新たに移住してきた人、一人一人を活力を持って描き出し、その描写の中から現代の農業や、私たちが当たり前と思っている衣食住の形、ひいては人間と自然の関わり方などについて鋭い問いかけをしてくれた」(審査員)。

【第56回】
 世界的に環境への関心が高まるにつれ専門の映画祭が各国で生まれています。環境映画祭のネットワーク「グリーンフィルムネットワーク」への加盟団体だけでも35か所。同ネットワークに、日本から唯一参加しているのがグリーンイメージ国際環境映像祭(主催:グリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会)。3月3日~5日に開催された第4回を、映画ジャーナリスト・中山治美がリポートします。(取材・文・写真:中山治美、写真協力:グリーンイメージ国際環境映像祭)

グリーンイメージ国際環境映像祭

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前身は21年続いた映画祭

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審査委員特別賞を受賞した『被曝の森 原発事故5年目の記録』は日本放送協会制作。「被曝に関する圧倒的なデータが不足している中、丁寧に現実の細部を明らかにし、現状を可視化した」(審査員)。
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第4回グリーンイメージ国際環境映像祭のポスター

 グリーンイメージ国際環境映像祭の前身は、1992年に、アジア初の環境をテーマにした国際映画祭として注目を浴びたアース・ビジョン地球環境映像祭。主催団体の組織変更により2013年3月にアース・ビジョン地球環境映像祭20+1を開催して21年の歴史に幕を下ろした。その時のメンバーが中心となって新たに2014年3月に第1回グリーンイメージ国際環境映像祭をスタートした。実行委員会委員長は、映画評論家で日本映画大学学長の佐藤忠男氏、事務局長を気候変動・環境教育の研究や調査に携わっていた尾立愛子さんが務めている。

 「東日本大震災があり人々の意識が変わっていく中、映画で何ができるのか考えていきましょうと話していた矢先に組織が解体されることに。ここは潔く名前を変えて、かつ、昔はゴミ問題が主流でしたが、人の生き方や文化も含めた新たな枠組みで取り組んでいこうということで、名称を“グリーンイメージ”にしました」(尾立さん)。

 アース・ビジョン地球環境映像祭から派生したもう一つの映画祭として、地球環境映像祭(主催:一般財団法人 地球・人間環境フォーラムなど)が年に1回、横浜で開催されている。

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『WOOD JOB!』からさらに深く森を知る

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板倉建築について講演を行う筑波大学名誉教授の安藤邦廣さん。板倉建築は福島など一部の仮説住宅でも取り入れられ、プレハブとは違う木材のぬくもりと機能性が注目された。

 開催は3日間。大きな柱は2つ。48の国と地域から応募された194作の中から、2度の審査を経て選ばれたグリーンイメージ入賞作15作の上映と、有識者を招いてシンポジウムと特別上映作品を紹介する特別プログラムだ。

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NPO法人くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所とグリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会が共同で製作したドキュメンタリー『里馬の森からー森を活かす古くて新しい技術・馬搬』。3.11後、機械に頼らない生活が見直されつつある中、石油に頼らず、自然を壊さない木材の搬入方法である馬搬に着目。現在、2人しかいない馬方に約1年間密着している。

 第1回のテーマは、「東北の森から明日を考える-木質バイオマスで拡がるエネルギー自立の試み」と題して、東日本大震災時に避難所を温めたペレットストーブの製造販売を行う株式会社さいかい産業の古川正司氏が講演を行った。第2回と第3回は、「映像で伝える森を活かす古くて新しい技術・馬搬」。そして今年は、「森を活かす板倉建築-先人の知恵・元祖モバイルハウス」と題し、国産材を活用した日本古来の木造建築である板倉の家作りに取り組んでいる筑波大学名誉教授で里山建築研究所主宰・安藤邦廣氏と、アウトドア用品の製造・販売会社「モンベル」広報部本部長の竹山史朗氏を招いてのシンポジウムが行われた。

 「東日本大震災の時に『水源地を守るにはどうしたらいいのか?』から始まって、それが第1回。そこから、では山の木を運ぶには? ということで、2回・3回と、馬で搬出するところまで考えた。そして今年は、馬で運び出した木を都会で活用するのは? と、板倉建築にたどり着きました」(尾立さん)。

 津波被害を受けた海を再生させるためには、森が育む水がいかに重要か。海・里・山の巡回システムを機能させようという植林プロジェクトが各所で積極的に行われている。一方で日本は、国土面積の66%が森林という世界有数の森林国であるにもかかわらず、木材の自給率は33.3%(平成27年度林野庁発表)で約6割を輸入製品に頼っているという矛盾を抱えている。林業従事者の長期的な減少が影響しているのだという。

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『林こずえの業』の蔦哲一朗監督は、高校野球の名門である徳島県・池田高校の蔦文也・元監督の孫。蔦監督も地元徳島を舞台にした映画を撮り続けている。

 グリーンイメージ入賞作品の中には、徳島県の林業PR映画『林こずえの業』蔦哲一朗監督)もあった。林業を舞台にした映画といえば『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(2014)があったが、本作はさらに林業の今を映し出しており、職人の手だけでなく、大型機械を使った伐採が進み、昔よりも遥かに男女の性差なく従事できることが描かれていた。こうした映像祭の魅力は、映画1本だけでは気づかなかったことも、プログラムを通して見ることで多方面から環境という1つのテーマを追究できるところにある。ちなみに筆者は林業に関する知識はほぼゼロ。そんな初心者でもそれなりに理解し、関心を高めてくれるのが映像の力でもある。

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驚愕の海のプラスチックの行方

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グリーンイメージ大賞のヴァンサン・ペラジオ監督『海-消えたプラスチックの謎』(2016・フランス)。プラスチックゴミが海流に揉まれ、紫外線を浴びているうちにマイクロプラスチックとなり、それを魚が呑み込んで、人間が食べているとしたら……。想像しただけでも怖いっ!

 グリーンイメージ大賞の審査委員は3人。今年は一橋大学大学院言語社会研究科教授の鵜飼哲氏、東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員の岡田秀則氏、産業技術総合研究所再生可能エネルギー研究センターに所属する安川香澄さんと、映画の専門家だけでなく実際に環境問題に携わっている方が加わっているのが本映像祭の他と異なる部分である。

 そして最高賞に当たるグリーンイメージ大賞(副賞・賞金10万円)は、海洋に破棄されるプラスチックゴミの99%は見当たらなくなるが、残りの1%はどこへいくのか? という科学者たちの研究を追ったヴァンサン・ペラジオ監督『海-消えたプラスチックの謎』(2016・フランス)。

 安川さんは「ゴミの残りの一部が氷山に取り込まれていたり、海底に沈んでいるようだが、では残りは? となったあたりからグイグイ作品に引き込まれていきました。また新たに知ることばかりで、浮いているプラスチックゴミは紫外線に分解されてマイクロプラスチックになり、魚などによって食物連鎖に取り込まれていくらしい。生物への影響はまだ解明されていないがこれから研究が進むという。その点を不安を煽るのではなく、むしろ科学的に分からないことは分からないときちんと述べている。そこも好感を持てた。今、考えなければならない問題としてこの作品を大賞に選んだ」という。同時に、地熱エネルギーの研究を行っている安川さんは3.11以降、メディアの取材を受けることが多く、その時に実感したことを踏まえ、「多くのテレビ番組などはこちらの発言をカットして、勝手に別の意味の所でコメントを使用されることがあって『こちらの意図と違うんですけど』ということが多々ありましたが、本作は見ている限り、科学者が説明しているところはきちんと使っている」と評価のポイントを述べた。日頃、映画産業にどっぷり浸っている者にとっては一味違う作品の捉え方と講評も新鮮だ。

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『被曝の森 原発事故5年目の記録』の苅田章監督(写真左)と藤松翔太郎監督。藤松監督は2012年NHK入局で、ずっと被災地での取材を続けている。今回の映像祭では若い監督たちが活躍した。

 審査委員特別賞は、NHKスペシャルでも放映された苅田章・藤松翔太郎監督『被曝の森 原発事故5年目の記録』(2016・日本)と、新潟県・越後妻有に都会から移り住んだ夫婦を通して、自然と共存する里山の暮らしを見つめた小林茂監督『風の波紋』(2015・日本)に贈られた。前者は3.11と福島第一原発事故、後者は3.11直前に起こった長野・新潟県境地震と共に災害や人災が静かな暮らしを襲う。そこにあった日常を壊された時にどのように生きて行けばいいのか。奇しくも、我々は今、人間力を試されているのだなということを痛感させてくれる2本である。

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私的グリーンイメージ大賞はこちら!

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『生きる 伝える “水俣の子”の60年』は熊本県民テレビの制作で、水俣病公式確認60年を迎えた2016年5月1日に日本テレビ系NNNドキュメントで放送された。
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『生きる 伝える “水俣の子”の60年』の上映後、トークイベントを行う東美希監督(写真右)と映像祭事務局長の尾立愛子さん。東監督は熊本県民テレビ報道部に配属となって水俣担当になった時、小学校時代に習った水俣病のことと現実との違いに衝撃を受け、このドキュメンタリーを製作したという。

 賞は逃したものの、個人的に感銘を受けた作品を紹介したい。1作目は熊本県民テレビが制作し、2016年5月1日に日本テレビ系「NNNドキュメント」でも放送された『生きる 伝える “水俣の子”の60年』(2016・日本)。昨年は水俣病公式確認から60年の節目の年にあたることから制作していたが、直前に熊本地震が発生。そのため、予定されていた慰霊式典などが軒並み中止になったそうだが、2013年入社の東美希監督は、何としてでもこの番組を5月1日に放送しなければと奮闘。水俣に出向き、有害な水銀ヘドロを封じ込めて作った公園が地震の影響を受けていないか追加取材をした映像を急きょ盛り込みつつ、水俣病で苦しむ人たちを追いながら今に続く問題であることを投げかけたドキュメンタリーだ。

 とりわけ原因不明の手足の痛みを負いながら水俣病と認定されず、裁判を起こして行政と今もなお戦っている人たちの二重の苦しみは、原爆症認定や薬害訴訟、さらにはこれから起こりうるであろう福島の放射能汚染などにも通じる国の補償問題の無慈悲さを露呈している。また、グリーンイメージ大賞を受賞した『海-消えたプラスチックの謎』とも繋がる海洋汚染の問題でもある。残念ながら東監督は今年4月に報道部から編成業務部へ異動となってしまったようだが、局として、いや何なら東監督をまた報道部に戻していただいて、引き続き取材を継続していただきたいと切に願う。

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10分の短編『ブロック』(スイス、キルギスタン)は、キルギスタンの大草原の、携帯電話送受信スポットにカメラを据え置きし、そこにやって来る遊牧民たちの会話から、彼らの暮らしを見つめた。

 もう1本はナディン・ボラー監督の短編『ブロック』(2015・スイス、キルギスタン)。キルギスタンの大草原にカメラを置き、なぜかそこだけ携帯の電波が入る通称“ブロック”と呼ばれる場所に、次々と電話をかけにやってくる遊牧民を捉えただけの作品だ。

 「ガソリンが切れたから持ってきてくれ」という緊急事態から、嫁のグチまで、遊牧民の生活に携帯電話が必需品となっていることを映し出しているが、牧歌的で微笑ましい。わずか10分の短編だが、ここから新たなドラマが生まれるのではないか? と想像を膨らませてくれる。本作をヒントに、フィクションを作る監督はいないかと、密かに期待している。それにしても“グリーンイメージ”の概念は、実に幅広い。

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会場は都心のオアシスで

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上映会場の日比谷図書文化館コンベンションホール。特徴的な扇型の客席。

 上映会場は、東京・日比谷公園内にある千代田区立日比谷図書文化館地下1階の日比谷コンベンションホール大ホール(207席)。ガラス張りの三角形の外観が特徴的な建物だ。区の施設ゆえ、営利活動や物販、さらに館内外の共用スペースでのビラ配りや募金など一般利用者を巻き込む行為が禁止などの使用条件があり、日比谷公園来場者の目に触れる場所での映像祭のPR活動が難しいという制約はある。

 しかし緑溢れる公園内での開催はグリーンイメージ国際環境映像祭のイメージにピッタリ。またホール脇には図書館フロアの本の持ち込み可能&無線LAN完備のライブラリーダイニング日比谷があり、映像祭合間にコーヒーブレイクも可能。実はここ、全国でも珍しい「とんかつ まい泉」と喫茶チェーン店「PRONTO」のコラボ店。日比谷公園内には老舗洋食店「松本楼」など飲食店が結構あるのだが、ライブラリーダイニング日比谷は知る人ぞ知る穴場スポットなのだ。

環境問題は全ての人間が当事者

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共に主人公は、避難解除指示準備区域の富岡町に住む松村直登さん! ということで、『ナオトひとりっきり』の中村真夕監督(写真左端)と『ハーフライフ・イン・フクシマ』のマーク・オレクサ&フランチェスカ・スカリースィ監督は一緒にトークイベントを開催。そこに松村さんが、いつもの作業着を着て特別参加(写真左から2人目)。松村さんは、テロで犠牲になったベルギー出身ジル・ローラン監督『残されし大地』(公開中)にも出演している。

 グリーンイメージ国際環境映像祭終了後は、名古屋などで巡回上映を行うほか、環境教育のプログラムで活用してもらえるよう、年間を通して所蔵作品の貸し出しを行っている。

 さらにNPO法人くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所(宮城県)と共同でドキュメンタリー映画『里馬の森からー森を活かす古くて新しい技術・馬搬』を製作し、国内外で上映活動をしながら実際に活動をしている人たちと市民が出会い、共に自分たちの未来を考える場を積極的に設けているという。

 尾立さんたちの原動力となっているのは、3.11の時に東北で行った自主上映活動だという。「環境問題など社会的な活動は一人の思いで行動していても限られてしまう。でも映画を上映することで、その中の活動を見せ、その場に皆が集うことで新たな出会いも生まれる。映画って、人が集まり理由がつけられるんですよね。だからこそ、多くの人が映画に惹きつけられるのだと、改めて映画の力を知りました」(尾立さん)。

 実際のところ、アース・ビジョン地球環境映像祭時代に付いていた大手スポンサーが離れたそうで、運営予算も人手も厳しいという。まだ映像祭の認知度も低く、観客動員もまだまだこれから……という感じだ。それでも尾立さんは「一度ゼロになった映画祭を、別の形で続けていくにはパワーが必要です。でも、それを乗り越えていかに強かに継続していくか。その力を失ったら、文化は簡単に消えてしまうと思ってます」という。

 そして実行委員会委員長の佐藤忠男氏が受賞セレモニーで述べた。「環境問題は全ての人間が当事者である。会場がささやかでも、上映された作品が(国内外で)巡回上映されたり、こうして記録に残ることが重要である。どこにでも起こりうる問題を描いている作品ばかりなので、作品を集めて上映すれば、一般市民レベルで研究会もできる。やる意義が有ると信じて、この映像祭を開催しています」。第5回も来春、開催予定。

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