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新たなヒット作・名監督がここに!サンダンス映画祭受賞結果発表

 1月19日から29日まで、ユタ州パークシティで、サンダンス映画祭が3年ぶりに対面形式(オンライン上映とのハイブリッド)で開催、フィルムメーカーやキャスト、新たな才能やヒット作を求めるハリウッド業界人が世界中から集まり大きく賑わった。

 コロナ禍の影響や配信サービスの隆盛で、激しく変わりつつある映画業界において、今後インディペンデント映画はどうなっていくのかを予想する場としても注目されていたが、結果として各部門に質の高い作品が揃い、インディーズの活力を感じさせる催しとなった。ロバート・レッドフォードによって始まった当初から、インディーズならではの独自の声や多様性や包括性を大切にしてきた映画祭だが、今年も例外ではなく、受賞作品もそれを反映したものとなっている。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)

『ア・サウザンド・アンド・ワン(原題) 』Courtesy of Sundance Institute / Photo by Focus Features

 ドラマ部門審査員大賞は、A.V. ロックウェル脚本、監督の『ア・サウザンド・アンド・ワン(原題) / A Thousand and One』が受賞。舞台は、1994年から2005年のニューヨーク。ストーリーは、刑務所から出所したばかりの黒人女性アイネズ(テヤナ・テイラー)が、6歳の息子テリーを誘拐するところから始まる。アイネズ自身、家庭を知らずに育ったため、なんとか息子に安定した家庭を与えようとするが、現実は厳しい。出所してきたボーイフレンドと一緒になり、初めてテリーに家族生活を味わせることができるが、それも長続きしない事態に。アイネズを演じるテイラーの演技は素晴らしく、当時のニューヨークの社会的変化も大きな背景となっている。

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『ゴーイング・トゥ・マーズ:ザ・ニッキ・ジョヴァンニ・プロジェクト(原題) 』Courtesy of Sundance Institute

 ドキュメンタリー部門の審査員大賞は、ジョー・ブリュースターミシェル・スティーブンソン監督の『ゴーイング・トゥ・マーズ:ザ・ニッキ・ジョヴァンニ・プロジェクト(原題) / Going to Mars: The Nikki Giovanni Project』が受賞。世界的に有名な詩人の黒人女性で、作家、大学教授、活動家でもあるニッキ・ジョヴァンニ(79)。1960年代から公民権運動に関わり、人種問題や社会派の詩を発表。歯に衣を着せぬ話し方とドライなユーモアも魅力で、多くの人々をインスパイアし続けている彼女の人生を振り返る。

『ザ・パーシアン・ビジョン(原題)』Courtesy of Sundance Institute / Photo by Andre Jaeger

 注目度の高いドラマ部門の観客賞とウォルド・ソルト脚本賞は、イラン系アメリカ人の監督、マリアム・ケシャバーズが脚本、監督、製作を手がけた半自伝的映画『ザ・パーシアン・ビジョン(原題) / The Persian Version』が受賞。映画監督の卵の主人公レイラ(レイラ・マハマディ)は、レズビアンであることを母親に受け入れてもらえず、一度だけゲイの役者と関係を持って妊娠してしまう。そんななか、父親の心臓移植手術のために家族全員がニューヨークに集合。そこでレイラは、祖母から両親がイランからアメリカに来ることになった衝撃的な理由を聞かされることになる。物語の途中、若いころの父母がイランにいた時の話や、父が初めて倒れた後、母親が8人の息子とレイラを育てるために不動産業者の資格を取ってがむしゃらに働くエピソードなどフラッシュバックシーンをはさみながら、母娘それぞれのストーリーを楽しめるエネルギッシュで心温まる作品だ。ケシャバーズは、2011年のサンダンスでも監督作『Circumstances』でドラマ部門観客賞を受賞している。

『シェイダ(原題)』Courtesy of Sundance Institute / Photo by Jane Zhang

 同じくイラン人の母娘を描いたヌーラ・ニアサリのデビュー作『シェイダ(原題) / Shayda(原題)』が、ワールド・シネマ・ドラマ部門で観客賞を受賞した。主人公シェイダを、『聖地には蜘蛛が巣を張る』で、昨年のカンヌ国際映画祭女優賞を獲得したザール・アミール=エブラヒミが演じる。舞台は1995年のオーストラリア、夫に虐待され、離婚しようとしているシェイダは、娘と共に、同じような境遇の女性たちが住むシェルターに身を寄せている。そんななか、夫が娘と監視なしで面会できるという判決が下されたことで、シェイダは、娘がイランに連れて行かれてしまうのではないかと、不安な日々を送ることになる。今作も、監督自身の経験を基にした自伝的映画で、イラン人女性の苦境がタイムリーに描かれている。

脱北者を追った『ビヨンド・ユートピア(原題)』 Courtesy of Sundance Institute

 ドキュメンタリー部門の観客賞は、韓国に亡命した脱北者の危険極まりない旅程を、隠しカメラで撮影したマデリーン・ギャヴィン監督の『ビヨンド・ユートピア(原題) / Beyond Utopia』が獲得した。韓国ソウルの郊外に住むキム牧師は、大勢の脱北者を助けてきたが、自らも逃亡の手助けをするため、凍った川で転び首を折る大ケガを経験しており、文字通り命懸けの救出だ。祖母を含む5人家族が、中国、ベトナム、ラオスと、山を登り、ジャングルを通って、タイまで逃げる様子を隠しカメラで追った映像にハラハラさせられる。また、10年前に脱北した女性が、息子を脱出させようとするが、うまくいかない様子が電話のやりとりで描かれ、涙をさそう。

父と娘の不思議な関係を描く『スクラッパー(原題)』Courtesy of Sundance Institute / Photo by Chris Harris

 ワールド・シネマ・ドラマチック部門の審査員大賞は、シャーロット・リーガンが監督・脚本を担当した『スクラッパー(原題) / Scrapper』が受賞。母親を亡くした、ロンドン郊外に住む12歳の少女ジョージア(ローラ・キャンベル)は、ソーシャルワーカーに叔父と暮らしていると嘘をつき、友達のアリと自転車を盗んで売った収入で生活していた。そこに突然、父親を名乗るジェイソン(ハリス・ディキンソン)が現れ、父と娘の不思議な関係がスタートする。独立心が強くクリエイティブだが、実は傷つきやすいジョージアを演じたキャンベルの演技が見事だ。

アルツハイマー病のジャーナリストと妻の姿を追った『ジ・エターナル・メモリー(原題)』Courtesy of Sundance Institute

 ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門の審査員大賞は、『83歳のやさしいスパイ』でアカデミー長編ドキュメンタリー賞候補になったチリの映画監督マイテ・アルベルディ『ジ・エターナル・メモリー(原題) / The Eternal memory』に贈られた。アルツハイマー病に冒されたジャーナリスト、アウグスト・ゴンゴラと、妻のパウリナ・ウルティアを描いた感動作。記憶を失いつつあり、怒りや恐れ、絶望感におそわれるアウグストを、20年以上のパートナーであるパウリナが、辛抱強く深い愛で対応する親密な瞬間をとらえている。

『20デイズ・イン・マリウポリ(原題)』Courtesy of Sundance Institute AP Photo / Evgeniy Maloletka

 また、同部門の観客賞は、ムスチスラフ・チェルノフ監督の『20デイズ・イン・マリウポリ(原題) / 20 Days in Mariupol』に贈られた。タイトル通り、ロシアがウクライナ・マリウポリに侵攻した2022年2月24日からの20日間を描いたドキュメンタリーで、目を覆いたくなるような悲惨な映像が次々と登場する。爆撃が続く中、4歳の女の子を助けられなかった医者が「これをプーチンに見せてくれ。子供の目と、泣いている医者たちを」と怒りに震えて訴える。また、爆撃された産科病院から妊婦が担架で運び出される映像は世界中に流れたが、その妊婦が助からなかったことを知らされる場面も。アメリカのニュース番組で幾度も流された映像だが、それは彼らが命懸けで撮影し、苦難を経て送ったものであることがよくわかった。陥落したマリウポリで犠牲になった人の数は、正確にはわかっていない。

『コーダ あいのうた』のエウヘニオ・デルベスが再び教師役を務めた『ラディカル(原題)』Courtesy of Sundance Institute / Photo by Mateo Londono

 最後に、全出品作品から観客が選んだフェスティバル・フェイバリット賞は、実話に基づいたクリストファー・ザラ監督の『ラディカル(原題) / RADICAL』が受賞した。『コーダ あいのうた』でも教師を演じたエウヘニオ・デルベスが、麻薬や腐敗が蔓延するメキシコ国境の町に赴任してきた教師セルジオを演じる人間ドラマ。兄がギャングであったり、極度の貧困状態にあったりと、それぞれに問題を抱えた家庭で育つなか、自主性を重んじるセリジオの急進的な教育方法に刺激を受けた生徒たちは、科学や哲学に興味を持つようになる。その中には天才的な才能をもった少女もいた。そして思いがけない事件が彼らに降りかかる。心温まる、観客のフェイバリット作品に選ばれたのも最もだと思える作品だ。

お詫びと訂正:初出時の情報に一部誤りがあったため訂正いたしました。読者の皆様、並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

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