森 直人

森 直人

略歴: 映画評論家。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「Numero TOKYO 」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況: YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。4月3日より、荒木伸二監督(『ペナルティループ』)の回を配信中。ほか、井上淳一監督(『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』)、三宅唱監督(『夜明けのすべて』)、山本英監督(『熱のあとに』)、リム・カーワイ監督&尚玄さん(『すべて、至るところにある』)、木村聡志監督&中島歩さん(『違う惑星の変な恋人』)の回等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

森 直人 さんの映画短評

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  • ありふれた教室
    学園版『由宇子の天秤』と言っても過言ではない
    ★★★★★

    怒涛の悪夢的99分を体感させる「負の連鎖」型のジェットコースター・ムービー。主人公はギムナジウムの新任教師。自らの信念、あるいは正義感や倫理観に強くこだわる女性が、ほんの些細な判断ミスから事態をどんどん悪化させていく。イランのファルハディと良く比較される作風だが、説話構造は春本雄二郎監督の『由宇子の天秤』にさらに近い(共にベルリン国際映画祭パノラマ部門出品作との共通点も!)。

    無駄のない語りを見せるチャタク監督の演出・設計力は圧巻。日本の教育現場にも共通する「無理ゲー」感をリアルに描き切った。同時により広い社会の縮図にも仕立てており、生徒による学校新聞の形でジャーナリズムにも触れている。

  • バティモン5 望まれざる者
    さらに研ぎ澄まされたアクチュアルな抗争劇
    ★★★★★

    バンリュー映画の急先鋒、ラジ・リ監督が『レ・ミゼラブル』からのバトンを自ら引き継ぐ形で撮った第2弾。劇的密度は前作より高いほど。まさに仏版ブラック・ライヴズ・マター的な内容・主題で、製作・脚本を手掛けた『アテナ』も含めて2023年6月から起こったナヘル・メルズーク暴動との関連や類似も良く指摘されている。

    物語は臨時市長に任命された医師の白人男性ピエールvsマリ系の若い活動家の女性アビーの対立構造で展開。まるで圧力鍋の蓋が吹っ飛ぶような勢いで、権力vs移民の分断と衝突が燃え上がり爆発する。撮影監督ジュリアン・プパールの空間把握が素晴らしい。戦場と化した団地を硬質のスペクタクルとして捉えていく。

  • 悪は存在しない
    西部劇の末裔、対話の可能性、人間の原罪
    ★★★★★

    音楽・石橋英子の提案から始まった濱口竜介の新作は、現代日本を舞台にした西部劇の派生形とまず言えるだろう。山男の巧(大美賀均)は自らを「開拓三世」だと述べる。「この土地の者は、ある意味皆よそ者なんだ。問題はバランスだ」。ここから外圧を掛ける会社組織2名の個としての主体に切り返しが起こる展開が見事だ。

    全体は三楽章仕立て。ホップ、ステップでムンジウの『ヨーロッパ新世紀』やロメールの『木と市長と文化会館』等を彷彿させつつ、「人間中心の問題」から「自然vs人間」の原型的な主題の領域へジャンプアップする。「開拓」の意味を拡張させつつ、不気味な映画の肌触りや魔に足を踏み込む様が極めてスリリングだ。

  • シド・バレット 独りぼっちの狂気
    天才の秘密、刹那と永遠の謎
    ★★★★

    シド存命時に撮られたBBCの『ピンク・フロイド&シド・バレット・ストーリー』(01年)を受け継いだ企画だろうか(そちらにもブラーのG・コクソンが登場)。監督はなんとレコジャケ界の伝説的デザイン集団ヒプノシスのS・トーガソンで、2013年に彼が逝去した後に完成。サイケデリア時代のカリスマ美青年の素顔と「その後」がこれまで以上に深掘りされる。

    ポップ音楽における「向こう側」を美辞麗句で飾るのは21世紀では不適切かもしれない。しかしシドの友人たちがこの「狂ったダイアモンド」を、かつて夜空に一瞬だけ輝いた美しい星を見た時の想い出のように語るのが印象的だ。その甘い郷愁と切なさに胸が締めつけられる。

  • システム・クラッシャー
    「私」は誰も奪えない
    ★★★★★

    2019年の傑作。この凄まじい映画を5年もスルーしていたなんて血の気が引くほどだ。H・ツェンゲルが爆演する父親からのDVでトラウマを負った9歳の少女ベニー。瞬時に怒りが発火する彼女を社会/世界はいかに受容するのか。この生々しく困難な問題提起作をフィクションの劇映画として作り上げた事に驚くばかり。

    本作が初長編のN・フィングシャイト監督は大人側の恐怖や弱さも包み隠さず描き、主題を負の連鎖の根本にスライドさせず、ベニーが居る現場にあくまでタフに踏ん張る。そこからぎりぎりの尊厳がせり上がる。ニーナ・シモンの超名曲「Ain’t Got No, I Got Life」が最高純度の鋭利さでぶっ刺さった。

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